降り続く雨は止まることを知らず、くすんだ景色を滲ませる。
大樹の下で一人、何をするわけでも無く佇んでいた。
頭上には、花の雲。
盛りを過ぎたそれは、風に遊ばれる様にして止め処なく散ってゆく。
冷たい雨と肌寒さに、寂寥感が募るばかりで。
心浮き立つ春の気色も、今は彩りを失っていた。
一際、大きな風が吹いた。
舞い上がる花吹雪が、灰色の空へと吸い込まれていく。
惜しむよりも先に、美しいと思った。
憂いを帯びたその表情は、見る者の胸を打つ。
散りゆく花を想い、儚さを嘆いているのだろうか。
風に舞う薄紅の欠片に、何を重ねているのだろう。
発しかけた声は言葉を成さず、ただ雨音に消えていく。
この空気を、破ってしまいたくはない気がした。
満開に咲き誇り、見る者全てを魅了するそれは、
地に落ちれば踏み荒らされ、泥にまみれて穢れてゆく。
あまりに短い、刹那にも似た栄華。
だからこそ人を惹きつけ、憐情を誘うのだろう。
自分はそれを、美しいと感じたけれど。
華々しく咲き乱れる姿よりも、終わる瞬間にこそ魅力を感じる。
そう言ってみせれば彼の人はどんな顔をするだろうか。
深い色を湛えた瞳が、名残惜しそうに細められた。
「今年はもう、終わりか」
寂しさを湛えた幽かな笑顔の後ろで、再び花吹雪が舞った。
青空の下、日に照り映えて輝いていた頃を思い出す。
灰色の景色の中、風雨に晒され静かに朽ちてゆく姿に、
終わりを感じずにはいられなかった。
雨に濡れ、淡い香りを放つ黒髪を見て願う。
儚きものに、囚われぬよう。
名残惜しさを感じるのは、自分がまだ此方にいるから。
引き込まれてはならない。そう言った。
口の端に乗せた言の葉は、彼の人に届かずに晩春の空に消えた。